世界の水道民営化事情!日本は大丈夫?

日本でも施行された水道民営化ですが、世界を見ると成功例はほとんどありません。水汚染や水への権利を取り戻す市民運動など、様々な問題が多発している現状。再公営化をした国も少なくありません。ではなぜ日本は水道民営化に踏み込んだのか、今後日本が抱える問題とは何なのか、世界の水道民営化事情を踏まえて解説いたします。
目次
日本も施行!世界における水道民営化の事例
日本でも施行された水道民営化。まずは世界の事例を見ていきましょう。
【フランス・パリ】民営化は失敗に
フランスのパリ市では、1985年に水道民営化を施行しました。しかし2010年、再公営化されたのです。
というのもパリ市では1985年から2008年にかけて、水道料金が174%も増加。再公営化後の調査によって、利益が過少報告されていたことも発覚しました。
当時パリで副市長を務めていたいたアン・ル・ストラ氏は、経営が不透明で正確な情報が行政や市民に開示されていなかったと話しています。
174%も水道料金が増加した上に、きちんとした情報開示すらされていなければ、市民の不満が募るのも無理ありません。30年以上にわたり民間企業に事業を託していたパリですが、結果として水道民営化は失敗に終わりました。
実は再公営化をしたのはパリだけではありません。他にもフランス国内ではニースや、アメリカのアトランタなど、2000年から2017年の間に276事例もあるのです。
【スペイン・バルセロナ】再公営化を求める市民運動へ
バルセロナでは水道民営化を施行したものの、水への権利を市民に戻すための市民運動が巻き起こりました。
水は人が生きていく上でかかせないもの。そんな水を民間企業の独占的な経営にゆだねることに不満を感じる市民が出てきました。そして市民も参加して管理をするやり方を設けるための運動が、欧州では広がっているのです。
市民運動の結果、バルセロナでは地域政党バルセロナ・イン・コモンが誕生。市長は二期連続で市民たちからの支持を受けています。
【米国・ピッツバーグ】健康被害をもたらす鉛汚染問題
アメリカのピッツバーグでは、2012年から2015年までヴェオリア社が水道給水を担当していました。その後の2016年、国が定めた基準を大きく上回る量の鉛が、水道水から検出される事態に。
ピッツバーグでは水道管と建物をつなぐ部分に鉛管が使われていました。しかし通常科学的に処理をして鉛の濃度を調整する必要があるにも関わらず、その対応がされていなかったのです。結果水が汚染されてしまい、長い間市民たちがその水を口にしていたことが発覚。とくに免疫力が低い子供たちに健康被害をもたらす可能性があるとして、緊急事態となりました。
それなのにもかかわらず、ヴェオリア社は1年間の調停の後、一切の責任を取らないままピッツバーグを去ることに。事業を任されている間に1,100万ドルもの利益があったことから、鉛汚染に関して何かしらの責任があったはずという見解だったものの、責任を問うことはできませんでした。
ピッツバーグのような事例もあったことから、日本で水道民営化が施行されれば水質の低下が起きるのではないかと、懸念する声も上がっています。
【英国・イングランド】成功と言われるも問題は山積み
イギリスのイングランドは、水道民営化の成功事例としてあげられています。しかし実際は、問題が山積みとの声も。
なぜなら民営化されたことにより、サービスの低下や漏水率の上昇が起こり、世論調査の結果市民の70%が再公営化を望んでいる状況だからです。
これまで公のもの、市民のものとしていた水を民間企業が受け持つことを受け入れられない、独占的なやり方に納得できないといった意見を持つ市民が多いのかもしれませんね。
イングランドがこのまま水道民営化を続けていくためには、浮き彫りとなった問題点を改善していくしかありません。
なぜ日本も水道民営化となったのか
これほど海外での失敗例が多いにもかかわらず、なぜ日本も水道民営化を決断したのか。その理由は、水道管の老朽化にあります。
そもそも水道管の耐用年数は40年と決まっています。しかし日本で使われている水道管のほとんどが、1960年頃に建設されたもの。大部分の地域では、耐用年数を大幅に超えた水道管を使い続けている現状です。
このまま老朽化した水道管を放置すると、水漏れや爆破事故に繋がる可能性も。
ではどうして老朽化した水道管の交換が進んでいないのか。いたって簡単な理由で、交換するための予算が足りないからです。そのため政府は、自治体に運営を任せる民営化に踏み込んだというわけですね。
しかし日本の水道事業は安い水道料金のニーズが高いことから大幅な値上げをせず、結果的に老朽化した設備の更新が後回しになっている自治体が目立ちます。
そのため今後水道料金の値上がりをする地域が増える可能性も。また財政負担がなくなるコンセッション方式を導入する自治体が多くなるのでは、と言われています。
水道民営化の鍵となるコンセッション方式とは
コンセッション方式とは、自治体が公共施設などを所有したまま、運営権を民間企業に売却することです。数年後にはほとんどの自治体がコンセッション方式を導入する、という見方も出ています。
確かにコンセッション方式を導入すれば、運営権を売却することで既存債務を削減でき、財政負担もなく水道事業が行えます。また民間事業者による独自のノウハウを活かしたサービスの向上や、事業の効率化も期待できますよね。
しかし、メリットが多く思えるコンセッション方式には、否定的な意見も多いです。
というのも民間企業が経営をするとなれば、最優先するのは利益。これまでかかっていた費用を削減するなどして、人材や技術が弱体化してしまう可能性もあるのです。そうなればピッツバーグのような水質汚染へ発展してしまうことも考えられます。
また最悪の場合、運営権を持つ企業が倒産などしてしまえば、一時的に水道が止まってしまう可能性がないとも言えません。
とはいえ再公営化させることは費用も多くかかり、簡単なことではないのです。
簡単ではない水道事業の再公営化
民営化した水道事業を再び公営化させるには、手続きも複雑なうえに莫大なコストがかかります。
例をあげると、アメリカのインディアナポリス市では、2002年から水道事業を担当した民間企業が、水質の安全対策を怠ったり、市民へ過剰な請求をしたりしたことにより、2010年再公営化することに。
しかし民間企業とは、あらかじめ期間を決めた契約をしています。当初20年だった契約を10年に短縮する代わりに、2,900万ドルもの違約金を払う羽目となったのです。
ドイツのベルリンでも、水道公社の株を民間企業に売却した結果、水道料金の値上げや不十分な設備管理により、2013年にベルリンが13億ユーロもの資金を使って株を買い戻す結果となりました。その資金は住民が支払う水道料金に上乗せしたもの。
水道事業の再公営化は簡単なことではなく、海外の事例からも、コンセッション方式に反対する意見は少なくありません。
日本のこれからの水事情
世界の事例を見ても成功例がほとんどない水道民営化。しかし日本の水道事業はとうに限界を迎えており、急いで対策をしなくてはいけない状況です。コンセッション方式を導入することで、住民たちから不満の声が出ることもあるでしょう。しかし私たちは、水がなくては生きてはいけません。自治体には地域に合った正しい判断をしてもらいたいところですね。

